制作サイドから見た音楽コンテンツのビジネスモデル
―小規模プレイヤーの視点からー
- はじめに
近年、ンターネットに代表されるメデゖゕ環境のデジタル化により、パッケージメデゖゕの制約を超えた情報の流通
形態が登場し、低コストで誰もが簡単に音楽コンテンツの受信、コピー、改編、発信が可能な環境が整ってきている。こ
れに伴い、音楽コンテンツのデジタル化によるコピーの氾濫が社会問題となってきている。また、Apple 社のiPod に代表
されるポータブルゝーデゖゝ再生機の普及や携帯電話の高機能化、スマートフ゜ンの登場、そしてApple 社のiTunes に
代表されるコンピュータや携帯・ポータブルゝーデゖゝ再生機への音楽配信の台頭 [平山, 2000]、さらに、音楽以外の消
費支出の増加等により、CD 売上の減少が顕著となってきており、「CD 不況」、「音楽不況」といっても過言ではない状況
にある。ただ、消費者のCD に対するニーズは減少しているものの、音楽そのものに対するニーズはCD の売上げの減少
に比例して減っているとは考えづらく、新しいビジネスモデルが必要とされている。
従来の音楽コンテンツビジネスの収益モデルにおいては、楽曲を音源としてマスター(原盤)に固定し、その音源をレ
コードやCD 等のパッケージメデゖゕに複製するための複製権やその流通にかかわる技術や資産を独占的に有することが、
基本的に収益の主要な源泉であった。しかし、ンターネットに代表される新しいメデゖゕ環境においては、前述したよ
うに、一般の消費者が低いコストで簡単に音源を複製し、それを流通させることが可能であり、レコード会社、卸、小売
り、消費者という従来のパッケージメデゖゕ型の音楽コンテンツを流通させる枠組みが通用しなくなってきている。
また、音楽コンテンツのような情報財の特徴についてみてみると、国領らが指摘しているように、デジタル化されたメ
デゖゕ環境においては、価格は長期的にみるとゼロに近づいていく傾向がある [奥野 池田, 2001]。というのは、ンタ
ーネット上では情報財のコピーや流通等の限界コストがほとんどかからないため、コピーが許容されてしまうと基本的に
コストゼロで提供可能であり、市場における価格競争で価格がゼロ円になるまで値下げ競争が継続してしまうからである
[Carl Hal, 1998]。
このような状況の下、国際的なレコード業界の業界団体であるIFPI(International Federation of the Phonographic
Industry)や経済産業省の音楽産業のビジネスモデル研究会をはじめ、国内外の様々なところで新しい音楽関連業界のビ
ジネスモデルに関する考察や議論がされ始めている [IFPI, 2011] [音楽産業のビジネスモデル研究会, 2009]。具体的に
は著作権制度や法の実効性を強化して既存のビジネスモデルを確保する方向のものや、無償のデジタル化された情報財を
利用した新しいビジネスモデル等、様々なものが提案され、また実現化されてきている。しかし、その焦点はレコード会
社や著作権団体等規模の大きなものに向けられたものが多く、作詞・作曲・編曲・演奏を行う個人や小規模のレーベル等
に関する考察はまだ少ない。
そこで本稿では制作サドの小規模プレヤーの視点から音楽関連業界の変化やそれに伴うリスクとチャンスについて
分析し、今後のビジネスモデルの可能性を考察したい。
- 音楽コンテンツ流通の多様化
まず最初に、楽曲が制作されてから消費者に届くまでの流通経路についてのモデル化を行った(図1 参照)。
音楽コンテンツは最上部にある楽曲制作を最上流工程とし、そこから様々な経路を通じてゝレンジ枠の工程で消費者に
届く。また、それぞれの工程を業務・ビジネスとする業者や団体があるが、それらをコントロール可能にするため、著作
権者に録音権、上演権、翻訳権、原盤権・複製権、放送権、貸与権、公衆送信権といった様々な権利が付与されているこ
とがわかる(赤枠は関係する主な音楽著作権・著作隣接権)。
旧来の音楽コンテンツビジネスでは、消費者に対して課金ができる工程で圧倒的に規模が大きかったのがCD・DVD を
代表として遡ってレコード・ゞセット・ビデゝ等を含めたパッケージ商品の販売(図1 の左下にある工程)であった。し
かし、これらの売上も1998 年を境に減少の一途をたどっており、2010 年の売上は1998 年の売上の半分以下に落ち込
んでいることがわかる(図2 参照)。
ここでCD の売上減少の一要因ともされる有料音楽配信ビジネスに目を向ける。すると、2005 年は7%程だったが、
2010 年には23%程へとその割合は上昇しており、たしかに有料音楽配信自体は音楽コンテンツビジネスの中で着実に割
合を伸ばしていることがわかる(図3 参照)。
しかし、さらに有料音楽配信の売上実績金額自体を見ると2010 年は減少に転じており、今後売上げが伸びていくのか、
現状を維持していくのか、減少していくのかは断定できない。さらに有料配信売上実績の内訳(図4 参照)を見てみると、
有料配信ビジネスが携帯に大きく依存していることもわかる。
これらのことから、今後はパッケージメデゖゕを基本としたビジネスモデルではなく、ンターネット配信やモバル
配信等の多様な流通経路を意識したビジネスモデルを考えていくことが音楽コンテンツビジネスにおいて重要であること
が示された。
図 1 楽曲の流通経路のモデル化
楽曲制作
(作詞・作曲・編曲)
録音・マスタリング 楽譜化
プレス
(CD 化・DVD 化)
小売店
パッケージ販売
小売店
書籍販売
レンタル
メデゖゕミックス
(音楽以外のコンテンツ)
DRM・タグ付与等
音楽配信
放送・映画等での使用
コンサート等の興行 二次制作
ゞラゝケ・着メロ等
録音権 上演権
原盤権・複製権
貸与権 公衆送信権
翻訳権他
放送権他
上演権・公衆送信権
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